其ノ壱、志
万華鏡村。 そこは妖狐、猫又、鬼などの様々な種族のアヤカシが集う、活気溢れる自然豊かな美しい村である。 「ねぇ、伊丹。結界の術について教えて欲しいのだけれど。」 爽やかな日差しが降り注ぐある日のこと。 ふゆはは書斎で筆を進ませている師、伊丹に尋ねた。...
其ノ弐、絆
「こんな感じ…かしら…」 夕立を予感させる冷たい風が吹く中、ふゆはは屋敷の庭園で結界の術を身につける為に励んでいた。 「飲み込みが早いですね、結界の連結部分も安定しています。流石、ふゆはさんです。」 ふゆはは術を覚えることが本当に早かった。...
其ノ参、異
「…ふゆはさん、大丈夫ですか?」 「!」 伊丹の声に、ふゆははハッと我に返った。 ナギと過ごした翌日、ふゆははいつものように万華鏡神社にて伊丹の手伝いを行っていた。 「あ、ええ、ごめんなさい…、ちょっと…上の空だった…。」...
其ノ肆、落
時が流れたある日。 土砂降りの雨。 ふゆはは一人、屋敷から窓の外を眺めていた。 まるであの時のように、初めて結界の術の鍛錬を受けた日のようだった。 こんな日でも、ナギ、幻洛、裂は村の巡回に出ている。 伊丹は仕事の都合で神社へこもり、劔咲は村へ買い出しへ行ったままだ。...
其ノ伍、心
「…おはよう、劔咲。」 「ああ、ふゆはちゃん、おはよう。」 あれから一夜明け、ふゆははいつも通り朝食を食べる為、居間へ入った。 「昨日はちゃんと眠れたか?」 朝食を準備している劔咲が、スッと振り返った。 「え、ええ…大丈夫よ…。」...
其ノ陸、想
あれから一夜明けた。 いつもと同じ方角から、同じ日が昇っていた。 今日も、一日が始まる。 その日、ふゆはは自分の師、伊丹を探していた。 朝から伊丹の姿を見ていなかったのだ。 「伊丹?」 屋敷には、いない。 昨日の不可解な件もある、もしかしたら、あれからずっと神社の方にいるの...
其ノ漆、明
伊丹を樹海から連れ戻した日の夜、幻洛は伊丹の自室に居た。 「…。」 「…。」 時は子の刻。 二人は浴衣に着替え、幻洛は胡座で、伊丹は正座で、布団の上に座り向かい合っていた。 伊丹は普段一つに結っている柳緑色の髪を下ろしていた。...
其ノ捌、深
「んっ…」 眩い光が、障子越しに部屋を照らす。 あ、さ…? いつも起床する時間より、周囲が明るくなりすぎている。 「!」 まさか、何故、寝過ごしてしまったのか。 とにかく急いで身支度を済ませねば、そう思いながら、伊丹は身を起こそうとした。 「…?」...
其ノ玖、契
あれから暫く時が流れたある日。 幻洛は村の巡回任務の途中で、甘味処の縁台に座っていた。 巳の刻ということもあり、万華鏡村はいつものように賑わいを見せていた。 「…。」 一向に、伊丹を呪いから救う糸口が見つからない幻洛は、若干の焦りを感じていた。 「くそ…。」...
其ノ拾、欲(R15)
『俺の、ツガイとなってほしい。』 幻洛から求婚され、その思いを受け入れた伊丹。 互いの想いが通じ合えば、為すべきことはただ一つ。 ツガイの契りを結ぶ儀式を行うことだ。 伊丹を蝕む呪の件もあるため、誰にも見られぬよう、儀式は真夜中、万華鏡神社で行う事となった。 ………...
其ノ拾壱、愛(R18)
月の光に照らされた伊丹の自室。 青白く輝くその空間には、不思議とどこか暖かみがあった。 「幻洛さん。」 自室に戻ってきた幻洛に、伊丹は布団の上に座りながら上目で声をかける。 「あの、僕は…こういう行為については本当に無知で、…」 不安そうな表情で、伊丹は浴衣の裾を軽く握る。...
其ノ拾弐、粋
黄金に輝く朝の日が、遠くの山々から姿を現わす。 「…ん。」 奏でるような鳥のさえずりに、幻洛は目を覚ました。 ほんのりとした墨の香りが漂う伊丹の部屋。 昨夜、伊丹とツガイの契りを結んだ。 そして、欲望に溺れるほど伊丹を抱いた。 「…伊丹…。」...
其ノ拾肆、継
時が流れたある日の朝。 「おはよう…。」 眩い朝日が屋敷を照らす中、万華鏡神社の巫女、ふゆはは朝食をとるため茶の間へと姿を現した。 「おはようございます、ふゆはさん。」 「ふゆはちゃん。おはよう。」 自らの師であり、親代わりでもある万華鏡神社の神主、伊丹。...
其ノ拾参、刻
幻洛と別れた裂は、村外れにある森の入り口付近に来ていた。 「…この辺りのはずだったが…。」 まだ日は昇ったばかりだというのに、奥へと続く林道は極端に薄暗かった。 そして、呼び寄せるかのように風を吸い込み、まるで唸り声にも似た奇妙な風音。...
其ノ拾伍、溺(R18)
亥の刻が過ぎようとしていた夜更けの時間。 「…。」 湯浴みを済ませ、浴衣に着替えた伊丹は、自室の布団の上に座り、窓辺に浮かぶ満月を眺めていた。 解かれた柳緑色の長髪が、サラリと肩から流れる。 『…今夜、また部屋に行っても良いか…?』...
其ノ拾陸、夢
その日、幻洛はいつものように村の巡回に出ていた。 辺りは既に暗闇に覆われ、しんと静まり返っていた。 嗚呼、早く帰らねば。 ふと、暗闇の先に、背を向けて立ち尽くしている見慣れた者の姿があった。 「…伊丹…?」 柳緑色の長髪に、ピンとそびえ立つ狐耳。...
其ノ拾漆、怪
「…今日も何事もなく平和な日、だったな…。」 ときは酉の刻。 幻洛はいつものように、万華鏡村の巡回を終え、帰路についていた。 あの悪夢を見た日から、数日経った。 それから特に不可解な出来事もなく、比較的平和な日常を過ごしていた。...
其ノ拾捌、解
亥の刻。 万華鏡神社付属の屋敷に戻った幻洛と伊丹は、ふゆは、ナギ、劔咲、裂と緊急会議をしていた。 「…と、言うことだ。」 幻洛は今日起こった出来事を全て話した。 「…。」 全員険しい表情で静まり返り、いつも賑やかな茶の間は暫く無音と化した。...
其ノ拾玖、蕩(R18)
「ん…、は、んぅ…」 「…は、伊丹…」 月の光が優しく注ぎ込まれる薄暗い寝室。 情事の空気が揺らめくその空間は徐々に熱く甘い熱を帯びていき、二人の思考を支配していった。 「あっ、ん…幻洛、さん…」 伊丹は幻洛の腰の上に跨がり、太腿に感じる布越しの熱い塊を追い求めるように腰を...
其ノ弐拾、戦
午の刻。 その日の万華鏡村の空は、暗闇のように厚い雲で覆われていた。 「今日の天気は良くなさそうね…。」 ふゆはは今にも降りそうな雨のように、ぽつりと呟いた。 「…そうですね…。」 この不穏な天気に、伊丹もまた静かに返事を返した。 風を纏い、ザワザワと唸る森。...
其ノ弐拾壱、呪
「…く…、何処だ、ここは…ッ」 怪異に捕まった伊丹を追い、共に亜空間へと引きずり込まれた幻洛。 気がつくと、そこは現実とは思えないほど暗黒に包まれた世界が広がっていた。 周囲には、アヤカシのような亡骸が無惨な姿で多数転がっていた。 「ッ…」...
其ノ弐拾弐、神
ここは、何処だろうか 身に纏うものもなく、白く、何もない世界 俺は、死んだ、のか 貫かれた喉元には、あの傷の代わりのように、一輪の大きな花が咲いていた ふと目の前を向くと、自分と同じように、何も身に纏っていない伊丹の姿があった...
其ノ弐拾参、新
「ん…」 眩く差し込む光に、伊丹は重い瞼を開けた。 清々しいほど澄んだ青い空。 心地よく吹き付ける風。 見覚えのある風景。 「助かっ…た…?」 あの亜空間から脱出し、万華鏡村へ帰ってこれたのだ。 「ぐ、…ッ」 「…!幻洛さん…!!」...
其ノ弐拾肆、完
「龍神だと…?」 事の翌日、幻洛は紺桔梗色の髪を靡かせながら、万華鏡神社の濡れ縁に座り、美しい境内を眺めていた。 ボロボロになった服を改め、一部に白銀の糸を織り交ぜた煌めく衣装に新調されていた。 「ええ、幻洛さんの身体の半分は覚、もう半分は送り狼と、…その龍神のようです。」...