月の光に照らされた伊丹の自室。
青白く輝くその空間には、不思議とどこか暖かみがあった。
「幻洛さん。」
自室に戻ってきた幻洛に、伊丹は布団の上に座りながら上目で声をかける。
「あの、僕は…こういう行為については本当に無知で、…」
不安そうな表情で、伊丹は浴衣の裾を軽く握る。
伊丹はこれまで、恋愛という意味で誰かを好いたことが一度も無かった。
故に、その延長線上にある行為というものも、興味関心すら無かった。
今、その事について胸が高鳴っているなど、少し前までは考えもしなかったことだ。
誰かに恋をする。
そういった意味では、長年の愛弟子であるふゆはに対して、このような感情を抱いても不思議ではなかったはずだ。
それは血の繋がらない異性であれば尚更自然な事だ。
しかし伊丹にとって、ふゆはは純粋な愛弟子であり、自分の娘同然の存在でしか見えていないのだ。
自分は、生まれながらにして普通ではない。
その現実に、伊丹は表情を曇らせる。
「そんな事を悩んでいたのか。」
雲から姿を現わす陽の光のように、幻洛の声が降り注ぐ。
「満足出来ようが出来なかろうが関係ない。俺は今、伊丹が心も身体も委ねてくれている。…それだけで最高に幸せだ…。」
伊丹の隣に座り、そのまま細い腰を引き寄せる。
近くに感じる幻洛の香りに、伊丹は不思議と心が安まる。
「幻洛さん…。」
その存在を確かめるように、伊丹も幻洛の背へ手を回す。
「…伊丹…。」
幻洛はそのまま伊丹を布団の上へ優しく横たえる。
留め具を外した伊丹の艶々した長い髪が、布団の上でさらっと広がった。
「…。」
不安と少しばかりの期待が含まれた伊丹の眼差しが、遠慮がちに幻洛へと向けられる。
幻洛はその眼差しを捉え、うっとりと見つめ返す。
ああ、伊丹…、綺麗だ…。
恥じらい、赤面する伊丹の中性的な顔立ち。
そんな愛しい者の表情が月の光に照らされ、一層魅力を増した光景に幻洛の心は高鳴った。
するり、と、幻洛は伊丹の浴衣に手をかける。
「あっ、待って…」
突然、伊丹は思い出したかのように幻洛を制止する。
伊丹は何かを唱えながら軽く手を振り上げる。
途端に、部屋の扉や窓が重く軋む音が鳴り響く。
「術か…?」
驚いたように、幻洛は尋ねる。
「…戸が開けられないように、術で固定しました。それと、物音を遮る術も…。」
「何だその都合の良すぎる術は。」
「あくまで怪異から身を守るための術です…!本来は、こんな使い方をすべきではありませんが…。」
ボソボソと、伊丹は口籠る。
伊丹自身、幻洛との貴重な時間を気移りせず過ごしたい思いがあった。
もはやこの空間は、二人きりの世界だ。
「なら存分、お前を喰らって良いということだな…?」
幻洛はいつものようにニヤリと口角を上げ、長い髪を結んだ留め具を解き放つ。
ギラギラと黄金に輝く眼が、雄の欲を潜ませながら伊丹を見据える。
「…嫌だったら、言えよ…?」
「ん…」
幻洛は伊丹の浴衣の帯に手を掛ける。
目の前で刻一刻と進む行為に、伊丹の鼓動は徐々に早まった。
するり、と浴衣の帯が解かれたところで、伊丹はふと、ある疑問を幻洛に問う。
「…幻洛さんは、こういう経験はあるのですか…?」
こんな事を聞くのは些か配慮のないことだろう。
わかってはいるものの、伊丹は少しでも幻洛の過去を理解しておきたかったのだ。
幻洛の手の動きがぴたりと止まる。
「…実務的に言えば、ある。」
その言葉に、伊丹の心がチクリと痛む。
…ああ、やはりそうか。
幻洛さんは僕とは違い、男らしく頼りになる方だ。
そんな彼に堕ちる者など、僕以外に居ても不思議では無い。
僕が、初めてではないことなど。
ある程度予想していた回答に、伊丹は少々複雑な心境に陥った。
「…遠い昔、こういうことに興味を持ち始めたガキの頃にな。好いてもいない、遊び目的で近づいてきた女と、快感も幸福感も無いその場限りの一夜を過ごした。」
淡々と話していた幻洛は、何かを思い出したかのように嘲笑った。
「俺が心を閉ざすきっかけを作った奴の一人だったな。」
「!」
思いもよらぬ言葉に、伊丹はハッとする。
「すみません、変なことを思い出させてしまって…。」
「フッ…伊丹は何も悪くない。そんなヤツに一夜を許した俺が愚か者だっただけだ。」
「そんな…。」
彼の地雷に当たってしまった。
なんて愚かなことを尋ねてしまったのだろうか、伊丹は自分自身に毒づく。
心を閉ざしたきっかけを作った者。
それでも、幻洛は決してその者を責めることは言わなかった。
あくまで見抜けなかった自分が悪いのだ、と。
そんな幻洛に、伊丹は心が締め付けられた。
「それ以来、誰かと情交をすることも完全に絶ってきた。」
過去の古傷を蒸し返しても、幻洛は笑顔のままだった。
むしろ愛おしそうに、伊丹の柔らかな狐耳を撫でる。
「故に、こうして好いている者とするのは…初めてだな…。」
「っ…!」
愛する者と、心で繋がる。
その初めてが自分であることに、伊丹は複雑な心境ながらも確実な”幸せ”というものを感じた。
今、途轍もなく、彼が欲しい。
じんわりと、伊丹の身体の奥底で熱が上がる。
「あっ…」
幻洛は首筋、肩、胸、腹部へ口付けを落としながら、伊丹の着ている浴衣を乱れさせていく。
「ん、ぅ…幻洛さん…」
はらり、と浴衣が全てはだけ落ち、包帯の巻かれた白い肌が晒される。
遮るものがなくなり、伊丹は恥ずかしそうに頬を紅潮させる。
その光景に、幻洛はゴクリと生唾を飲んだ。
「綺麗だな、伊丹…。」
うっとりと、幻洛は伊丹の普段隠された素肌を舐めるように眺める。
その金眼の奥底には、これから獲物を喰らう獣の欲が静かにギラついていた。
するり、と伊丹の素肌の滑らかさを堪能する幻洛の大きな手。
胸周りを執拗に撫で回され、もどかしい感覚に伊丹は身をよじる。
「んっ…こんな…包帯で巻かれた身体など…。」
この包帯の下は、呪いで蝕まれている痣だらけだ。
魅了される要素なんてないはずだ、伊丹はそう思っていた。
「ああ、確かにその呪いの痣は称賛することは出来ない。」
一際低い声で、幻洛は答える。
「だが、俺が抱きたいのは”伊丹”そのものだ。たとえ身体に包帯が巻かれていようが関係ない。その呪いも含めて伊丹を喰らうことができるならば、…最高に興奮する。」
「…全くもう…。」
呆れたように、伊丹は言い放つ。
それでも、そんな幻洛のことが伊丹も愛おしくて仕方がなかった。
伊丹の浴衣を剥いだところで、幻洛も身に纏っている浴衣を脱いでいく。
幻洛の上半身が露わになり、伊丹は思わず息を飲んだ。
初めて見る幻洛の逞しい肉体美を目の前に、伊丹は眩しそうに目を細める。
これから、この身体と自分の身を重ねるのだ。
ドクンドクン、と、伊丹は心臓が速まった。
「…傷が…。」
「これか?」
幻洛の身体には、これまで戦ってきた戦士の証が大きく刻まれていた。
傷跡の一つに、伊丹の細い指がそっと当てられる。
その感覚に、幻洛の心臓も少しばかり速く脈打つ。
「…まあ、村を警護している以上、こういった傷は付き物だからな。」
ナギや裂も同様に、警護隊は常に危険と隣同士だ。
幻洛はその覚悟をした上、万華鏡神社、村、大切な仲間、そして伊丹を守るために警護隊となった。
怪我や恐怖に怯えては、警護隊を語れない。
つい先日、あの邪鬼の少年と対峙した際に負った傷も、真新しい傷跡として残っていた。
伊丹を庇ったことにより負った、消えない傷跡。
あの時、僕が居なければ、彼はーーー
「あまり余計なことは考えるな。」
先を読んでいたかのように、幻洛は伊丹の思考を遮る。
「俺にとって、この傷跡は一番大切な証だ。…あのとき伊丹を守ることができた、そう思えるからな…。」
幻洛はフッと笑いながら、自身の肩の傷跡を押さえる。
この先も同様の危険がないとは言い切れない。
だからこそ、この傷跡は特に大切な記憶として覚えておかねばならない。
大切な者を守る為に。
幻洛はそのまま、伊丹が身につけている下着を取り払う。
羞恥故に伊丹は少し抵抗したものの、幻洛を拒むことはなかった。
見間違い、ではなかったか…。
そこには儀式の間で見たものと同じく、雄に隠れるように雌の性器が潜んでいた。
「…。」
「そんなに見ないで下さい…。」
無言でまじまじと見られ、伊丹は恥ずかしそうに脚を閉ざす。
それでも全ては隠しきれず、脚の間から熱くしっとりと濡れた伊丹の雌が、ヒクヒクと物欲しそうに幻洛を誘惑しているのが見えた。
「っ…」
ゾクッと、幻洛は背から腰に熱が集中するのを感じた。
ムクリと雄の硬さが増し、幻洛の下着を圧迫し始める。
「伊丹、今までこの下半身に違和感はなかったのか…?」
「…いえ、本当に…、僕はコレが普通だと…。」
「そうか…。」
誰も知らない伊丹の身体を、今から自分が喰らい味わっていく。
沸き立つ雄の本能に、幻洛の理性が静かに乱れ始める。
「っ、ん…!」
じんわりと濡れていた伊丹の蜜壺に、幻洛の太い中指が悪戯に触れる。
突然の刺激に甲高い鳴き声を上げてしまった伊丹は、咄嗟に唇を噛み抗う。
「…げ、んらく、さん…っ」
「大丈夫だ…よく慣らしてやる…。」
ぬちぬちと入り口を弄ぶ幻洛の指。
その刺激を追い求めるように、伊丹の中は次第に愛液を増して更に幻洛を誘う。
「あっ…!」
ぬぷ、と幻洛の指がゆっくりと入り込む感覚に、伊丹は短く声を漏らし腰を跳ね上げる。
ぐ…っと、伊丹の中に幻洛の太くゴツゴツした中指が侵入していく。
熱く、柔らかな伊丹の雌が、幻洛の中指を求め絡みつく。
緊張する内壁を解すように中指を動かすと、伊丹の愛液が更に増え、卑猥な音が部屋に木霊した。
「っ…、ふ…」
雄の本能を刺激される光景に、幻洛は口の裾を上げ、耐え忍ぶように息を漏らした。
「…さて、何処がいいんだ?」
幻洛は指を増やし、誰も触れたことのない伊丹の中をぬちゅぬちゅと押し広げていく。
「んん…っ」
伊丹は布団を掴み、唇を噛み締めながら、はしたない声を上げまいと必死に耐えた。
「…どこまでも素直じゃないヤツだ。…ようやく、お前を手に入れたんだ。伊丹の気持ちいいところが知りたい…。」
幻洛は伊丹の狐耳に唇を寄せ、舐めるような重低音の声で囁く。
身体中に、幻洛の声が振動する。
伊丹の肩から腰が跳ね上がり、ぎゅっと幻洛にしがみついた。
「あ、っ…!んぅ…!」
差し込んだ指を更に奥へ進め嬲ると、伊丹は声を押し殺しながら身体を強張らせ、幻洛の指をきゅうきゅうと締め付けた。
己の指にやわらかな内壁が食い付いてくる感覚に、幻洛は涎が出そうになるのを耐えながらニヤリと口角を上げる。
「ああ、ここか…。成る程、よく締め付けてくるな…。」
「っは…、ん、そんな…、言わないでくださいっ…」
中で幻洛の指が激しく差し抜かれる感覚に、伊丹は狐耳をぺたんと下げ、火照った身体に息を乱れさせながらビクビクと身体を震わす。
普段からは想像もつかない程しおらしくなってしまった伊丹の姿に、ごくり、と幻洛の喉が鳴る。
「っん…!あ…」
散々伊丹の中を弄んでいた幻洛の指が、ぬちゅ、と卑猥な音を立てながら引き抜かれる。
幻洛の指が伊丹の愛液で濡れそぼり、銀色の糸を引いていた。
幻洛はギラギラした金眼で伊丹を見下ろしながら、伊丹の愛液で濡れた自身の指を獣のようにベロベロと舐め回した。
見せつけられるようなその光景に、伊丹は全身がカッと熱くなり、羞恥に染まった赤い顔を背けた。
幻洛の指が引き抜かれた伊丹の蜜壺が、愛液で濡れながらも寂しそうにヒクヒクと熱く疼いていた。
「っは…」
限界と言わんばかりに、幻洛は息を荒げながら浴衣の帯を解く。
「…!」
幻洛の下着の内から勢いよく現れた雄に、快感に溶けていた伊丹の顔が引きつる。
「…なんだその化け物を見たような顔は。」
「い、いえ…。」
いつの間に、このような事になっていたのだろうか。
その逞しい身体に比例するように、幻洛の雄も非常に立派なものだった。
太く勃ち上がり、血管を浮かべ、ドクドクと脈打つ欲の塊に、伊丹は恥ずかしいと思うも目が反らせなかった。
「挿れて、いいか…?」
「…は、入る、んですか…?僕の中、に…?」
幻洛は答えず、伊丹の脚を持ち広げ、その間に入り込む。
伊丹は思わず腰を引いた。
「っ…!」
「…こら、逃げるな…。」
そんな伊丹の行動も虚しく、幻洛にがっしりと腰を捕まれ、逃げられないよう固定される。
「…うぅ…、」
とてもではないが、伊丹は半分も入る気がしなかった。
それ程まで太く勃ち上がった幻洛の雄に、ただただ圧倒されていた。
「伊丹…。」
苦しそうに、幻洛は伊丹の名を呼ぶ。
「どうしても苦しくなったら…、術でもなんでも使って俺を止めてくれ…。」
「…!」
「なるべく負担はかけないよう心得る。…だが、情けないが耐えられる自信がない…。」
幻洛は伊丹の上に覆いかぶさり、首筋に顔を埋めながら獣のように息を荒げる。
崩壊しそうな理性を保ちながら、幻洛は口を開いた。
「…伊丹の中に挿れたい…。思いっきり揺さぶって…溢れるくらい中に出したい…。」
幻洛は覆いかぶさりながら、ぎゅっと伊丹を抱き寄せる。
内も外も、傷跡だらけの幻洛の温かい身体が密着し、伊丹の思考はいとも簡単に蕩けた。
ぼんやりとした思考の中、伊丹は幻洛の言葉を思い出していた。
『俺はもう、伊丹以外の者を愛することが出来ない。』
『こうして好いている者とするのは…初めてだな…。』
すなわち、後にも先にも、幻洛が愛に溺れるのは、もう伊丹しかいないのだ。
「…大丈夫です、幻洛さん…。」
伊丹は密着する幻洛の紺桔梗色の頭を優しく撫でる。
「…僕は幻洛さんを愛しています…。…貴方は僕の、大切な伴侶です。」
長く伸びた彼のフワフワした長髪に指を絡める。
幻洛の髪は、彼の体温と同じようにとても暖かく、心地よかった。
「貴方を拒む理由などありません…。…だから…、」
肩口に伏せられた幻洛のこめかみに唇を寄せる。
「…ぼ、僕の中に、挿れて下さい…。僕を幻洛さんで、満たして下さい…。」
伊丹は幻洛の腰に細い脚を絡ませ、誘うように幻洛を引き寄せる。
押し当たった幻洛の雄が、ドクドクと脈打っていた。
意を決したかのように、幻洛は伏せていた身体を持ち上げる。
「っ…伊丹…、」
伊丹を見下ろす幻洛の金眼が、獲物を食らう獣のようにギラリと輝く。
幻洛は滾った肉棒を軽く撫で摩り、散々弄ばれ、濡れそぼり柔らかくなった伊丹の蜜壺に当てがった。
そのままグッと腰を押し付け、蕩ける伊丹の中に滾る雄をゆっくりと押し挿れる。
「ひ、ぁ…!」
グチ…、と熱い塊りが入り込む感覚に、伊丹は思わず声を漏らした。
「っ…、く…」
好いた者とは初めて繋がる。
過去の忌々しい記憶を微塵も感じない程、初めて味わう強い快感が幻洛の理性を襲った。
「…っ、は…、奥、進めるぞ…。」
一思いに突き上げ、無茶苦茶に揺さぶりたい欲望を押し殺し、幻洛は眉間に皺を寄せながらグッと奥歯を食い縛る。
「ん、くぅ…っ」
ぐぐ…、と中に入り込む太く熱い雄に、伊丹は幻洛の背を掴みながら耐え凌ぐ。
「っ…、苦しいか…?」
「は、ん…、だい、じょぶ…」
消え入りそうな声で、伊丹は答える。
包帯に巻かれた細い身体を気遣いながら、幻洛は自身の雄をゆっくりと、慣らすように途中で軽く揺すりながら奥へ奥へと進めていく。
グッ…と最後の一突きを押し入れ、幻洛は溜めていた息を一気に吐き出す。
「っ…、ほら、全部入ったぞ…。」
窮屈そうに自身の雄を咥え込み、ビクビクと奥で震える伊丹の蕩けた雌。
今自分は、最愛の嫁となった伊丹と繋がっている。
そう思うと、幻洛は興奮と嬉しさで益々雄が滾り上がった。
「は、ふ…、い、一々言わなくて、いいですからっ…」
中を圧迫し、ドクドクと脈打つ幻洛の熱い雄。
最愛の旦那となった幻洛と繋がっている感覚に、伊丹は恥ずかしさと嬉しさに涙が零れ落ちる。
その涙を掬うように幻洛は身を屈め、伊丹の目尻に口づけを落とした。
「ひ、ん…!」
幻洛が体勢を変えたことにより、中にある彼の熱い雄が伊丹を刺激した。
まるで尻尾を掴まれた狐のように、伊丹は短く鳴いた。
ゆさゆさと、幻洛は覆いかぶさったまま腰を小さく揺らし始める。
「ん、…伊丹、伊丹…、っは…」
「あ、ぁっ…、ん、げんらく、さ…っ」
互いが互いの名を呼び合い、強く優しく抱きしめる。
敷いた布団の擦れる音が、静かに鼓膜を振動させた。
『耐えられる自信がない』
そう幻洛は言ったものの、なんとか理性を保っているのだろう。
どれだけ伊丹がすがりついても、幻洛は焦らず、傷つけないよう、伊丹と快楽に溺れていった。
そんな幻洛の健気な想いが、伊丹は愛おしくて仕方なかった。
「げん、らくさ、…すき、だいすき…」
嬉しそうに、伊丹の雌が幻洛の熱く滾る雄をきゅっと優しく締め付ける。
「っ…!」
甘く痺れる快感に、幻洛の腰が反射的に揺れ動く。
「は、俺も、伊丹が好きだ、…っ」
快感を追い求めるように、幻洛の腰の動きが深く激しいものへと変わっていく。
ぐちゅ、ぐちゅん、と互いの愛液が混じり合い、音と快感で互いの思考を麻痺させていく。
「んゃっ…!」
幻洛の先端が敏感なところをグリグリと刺激し、伊丹は背を仰け反らせた。
ぼんやりとした思考の中、幻洛は伊丹と結合している箇所に目を向ける。
みっちりと雄に喰いつき、引き抜けば追い求めるようにぎゅうぎゅうと吸い付き、押し込めば嬉しそうに奥へ奥へと誘い込む伊丹の雌。
見たところによると、伊丹の雄の方は反応が鈍そうだ。
勿論、無反応というわけではなく、遠慮がちに勃ち上がってはいた。
しかし、それ以上に雌の感度の方が高いようで、今や彼の下半身は愛液でぐちゃぐちゃに濡れていた。
自分しか知らない、伊丹の淫らな姿。
その光景に、幻洛の中にある黒い独占欲が沸き立つ。
ああ、伊丹、俺の伊丹。
その身体の呪いなんぞに、俺の伊丹を奪われてたまるか。
呪いで蝕まれた痣以上に、俺の跡を残してやる。
もっと、もっと、俺を欲しがれ。
俺だけを、見ろ。
「ひ、ぁっ…幻ら…っ、だ、め…!」
突然、制止を求める伊丹の声に幻洛の思考が現実に戻される。
欲に溺れ、伊丹に無理強いさせてしまったかもしれない。
スッと、幻洛は一瞬冷静になる。
「…すまん、辛い、か…?」
伊丹の嫌がることは極力避けなければならない。
それが嫁という一生の伴侶であれば尚更だ。
わかっている、が…。
目の前には、涙を浮かべながら、溶けきった顔で必死に快楽に抗おうとする伊丹。
ああ、くそ…もっと善がらせたい…。
ドクン…
「や、あっ…!」
ぐっ、と伊丹は覆い被さる幻洛を押し返そうと手を突く。
「そん、なっ…、これ、いじょ…、おっきく、なった、ら…っあ…、ぼく…こわれちゃう…」
「っ…!」
幻洛はギリッ…、と歯を食いしばりながら内心舌打ちをする。
そんな煽り文句、どこで覚えてきた。
敷布団をギュッと掴み、狐耳を下げながらビクビクと震える伊丹の姿に、幻洛の本能が一気に駆り立てられた。
「は、…そう、煽られると、無理、だな…っ」
もはや幻洛も限界が近かった。
これ以上欲に溺れれば、本気で伊丹を傷つけてしまうかもしれない。
大切な、愛する者と初めての行為を、苦痛で終わらせたくない。
「…止めて、おくか…?」
「…!」
「無理強いは、っ…したくないからな…。」
幻洛は軽く身を引く。
理性を保っている間に、中断した方が互いのためだ。
ズルズルと、中で圧迫する幻洛の存在が遠のく感覚に、伊丹は焦りを見せる。
「ちが…っ、違う、んです…っ」
引き止めるように、伊丹は幻洛の腰に脚を強く絡ませる。
「やめ、ないでください…。ただ、わからない…、何かが押し寄せて…、」
それは今まで感じたことがなく、呪いが身体を蝕むのと逆の感覚だった。
「イきそうか?」
「イ、く…?」
「達することだ。自然なことゆえに恐れることはない。それに…、」
幻洛は目を伏せながら苦笑いする。
フッと出た吐息が少しばかり震えていた。
「俺も…っ、イきそうだ…」
余裕がないように耳元で囁かれ、伊丹の身体がビクッと跳ね上がる。
幻洛さんも、一緒だ…。
僕が幻洛さんで気持ちよくなっているのと同じように、幻洛さんも僕で、気持ちよくなってくれている…。
ちゃんと”僕”を、感じてくれている…。
嬉しい。
率直に感じる快感と悦びに、中に感じる幻洛の熱く硬い雄をキュンと締め付けてしまった。
「ゃ、んっ…」
ドクドクと脈打ち、硬く圧迫する幻洛の雄。
敏感な箇所を刺激する彼の雄の形をまざまざと感じ、伊丹の口から甘い声が零れ落ちた。
「っ…く…」
その甘く痺れる感覚に、幻洛も腰を震わせる。
もはや幻洛の理性は崩壊寸前だった。
これ以上煽られれば、何をするかわからない。
「っ…、続けられそうか…?」
ふうふうと、幻洛は獣のように息を荒げる。
中に埋め込んだ雄が、限界と言わんばかりにギチギチと震える。
「…幻洛さん…っ」
「!!」
突然、伊丹は自ら幻洛の唇を奪う。
儀式の間で幻洛が行ったのを真似るように、舌を割り込み、ぬるぬると絡め交える。
一通り幻洛の口内を舌で弄った伊丹が顔を離すと、つう…、と互いの唾液が口元で糸を引く。
互いを結ぶ途切れない唾液に、伊丹はぺろりと幻洛の唇を舐め上げる。
幻洛の中で抑えていた最後の理性の糸が、プツリと切れる。
「ッ…!馬鹿野郎ッ…!」
「あっ…!」
伊丹の脚を抱え上げ、幻洛の腰が再び激しく動き始める。
ぱちゅぱちゅ、と粘着質な音が互いの下腹部から鳴り響く。
「んっ…ぁ、あっ…!げん、ら、っ…あっ…!」
「っは、伊丹…!は、…伊丹、伊丹…っ!」
互いが互いを追い求め、夢中になる。
伊丹は甘えるような声で、幻洛の逞しい身体に腕を回し、必死に抱きついた。
彼から放たれる雄の匂い。
快楽に抗う低い唸り声。
欲に呑まれた雄の表情。
契りを結んだ者の強い雄の感覚に、伊丹の思考はクラクラと溶かされた。
もはや自身を蝕んでいる呪いの事など、気にかける暇も無い程に。
幻洛の雄を咥え込み、掻き乱される伊丹の奥底が、ずぐずぐと痙攣し始める。
「や、ぁっ…!げん、らっ…、イっちゃう…ぼく、イっちゃ、あっ…!」
「ん、はっ…伊丹、いた、み…!」
強い快感から逃げる伊丹の腰を掴み、幻洛は容赦なく雄の欲を打ち付ける。
ぱちゅん、ぬちゅぬちゅ、と互いの肌がぶつかり、互いの愛が混じる激しい音が小刻みに部屋の中を木霊する。
「ん、やっ…!ひ、んあぁ…!」
きゅうぅ、と伊丹の中がうねりながら一際キツく伸縮し、幻洛の雄を一層強く締め付ける。
「ぐっ…、ぁっ…!」
柔らかな雌がキツくまとわりつく快感に、ドピュッ、ピュッ、と幻洛の雄から熱い欲が勢いよく放たれる。
「あ、ぅ…っ…」
伊丹は中に熱いものが注ぎ込まれたと同時に、暗く冷たく重たい何かが砕け散ったような気がした。
「は、っ…、いた、み…」
自慰よりも長い射精を終え、幻洛は荒く息を乱す。
経験したことのない強い快感に、幻洛も腰が震えていた。
「は…、ぁっ…」
初めて訪れた強い快感に、暫し放心する伊丹。
下腹部の最奥まで注がれた大量の熱に、ビクビクと腰から尻尾まで震わせていた。
「…すまない、…無理、させたな…」
「ん、だいじょ、ぶ…」
幻洛は気遣うように、伊丹の柳緑色の頭を優しく撫でた。
幻洛は中にある雄を引き抜くために腰を動かす。
「んんっ…」
ズルリ、と中の雄が動き、達したばかりの伊丹は強い感覚に身体を強張らせた。
じゅぽんっ、と粘着質な音を立てながら、熱の残る幻洛の雄が引き抜かれる。
達してもなお硬さの残る幻洛の雄は、伊丹の愛液と自身の欲で白く濡れ、快感に震えていた。
引き抜かれた伊丹の雌は、名残惜しそうにヒクヒクと伸縮していた。
「…っあ…」
とろん、と中に吐き出された幻洛の熱い白濁とした欲が溢れ出る。
僕の中に…幻洛さんのが…。
収まりきれず溢れ出る幻洛の欲に、伊丹は不思議と幸福感に満たされた。
「…伊丹、伊丹…。」
「ん、…。」
溺れるほど喰らった身体を労わるかのように、幻洛は伊丹の首筋から足先まで、ちゅっ、ちゅ、と口付けを落とした。
幻洛に身体中を口付けされるくすぐったい感覚に、伊丹は軽く身動いた。
「もう…、幻洛さんってば…。」
太腿に優しい口付けを落とす幻洛の頭に手を伸ばし、伊丹はやんわりと静止するように触れる。
「…ああ、愛おしくてたまらなくてな…。」
ようやく伊丹と一つになれたんだ…、と、幻洛は幸せそうに笑いながら、予め用意していた清潔な布で伊丹の下腹部を綺麗に拭っていく。
その様子を、伊丹は大人しく、ぼんやりと眺めていた。
誰かにこれ程まで大切にされた事など、今までなかったことだ。
身体を拭き終わった幻洛は、再び伊丹に覆い被さり抱き寄せる。
首筋に顔を埋め、優しく喰むような口付けを落とす。
「…もう少し、俺のワガママに付き合ってくれないか…。」
先程までの雄々しさは何処へやら。
まるで図体だけ大きな子供のように甘え、抱きつく幻洛。
愛おしさのあまり、伊丹の心はキュンと高鳴った。
「フフッ…仕方のない幻洛さん…。」
擦り寄る幻洛を甘やかすように、伊丹は幻洛の肩口に軽く口付けを落とす。
「…もっとワガママしていいに決まっているじゃないですか…。」
伊丹は笑いながら、肩に顔を埋める幻洛の紺桔梗色の頭を優しく撫でる。
ふわふわとした質量の多い髪が、伊丹の手を暖かく包み込む。
伊丹の中に残った幻洛の欲が、じんわりと熱を放ち、その存在を主張し続けていた。
それは身体を蝕む呪いとは真逆の、温かく、とても優しい存在だった。
恋愛の、その延長線上にある行為。
最愛の者と、心と身体で繋がる大切な時間。
互いに心地良い余韻に浸りながら、ゆっくりと、静かに、濃厚で甘い時間を過ごしていった。