亥の刻が過ぎようとしていた夜更けの時間。
「…。」
湯浴みを済ませ、浴衣に着替えた伊丹は、自室の布団の上に座り、窓辺に浮かぶ満月を眺めていた。
解かれた柳緑色の長髪が、サラリと肩から流れる。
『…今夜、また部屋に行っても良いか…?』
そう尋ねられ、伊丹は一呼吸置きながらも心の中では迷わず許諾した。
幻洛が改めてそういった事を聞いてくるとすれば、おそらく、彼の目的はそういう"コト"であろう。
「…大丈夫かな…。」
幻洛が来るとわかっているせいか、伊丹は妙に落ち着くことが出来なかった。
幻洛と寝床を共にした回数は、もはや少なくはない。
しかし、実際に身体を重ねたのは、ツガイの契りを結んだ日の夜のみだった。
幻洛が部屋に訪れる度に、伊丹は心が高鳴っていた。
しかし伊丹の身体を気遣ってか、幻洛は無理強いすることが無かった。
それはそれで、伊丹もありがたいと思っていたが。
本当は、もっと求め合いたいなどーーー
「!」
部屋の襖の前に、気配を感じた。
同時に、伊丹の心が一際高鳴る。
「…伊丹、いいか?」
「ええ、どうぞ。」
聞き慣れたその声に、伊丹は落ち着いた声色で返事をする。
部屋の襖が開かれると、幻洛は伊丹を一目見るなりふにゃりとした笑みを浮かべた。
「ああ…、俺の嫁は髪を下ろした姿も堪らなく美人だな…。」
「何を言っているのやら…。」
伊丹は呆れたようにツンとするも、本心では幻洛の純粋さが愛おしくて仕方がなかった。
幻洛は伊丹の隣に胡座で座り、一際真面目な口調で問いかけた。
「身体、大丈夫か?」
「ええ…。」
「呪いの方は?まだ、押さえつけられるような重さはあるのか?」
「…ええ。でも、以前のような重さは無いんです。不思議と、憂鬱感も無くて…偶然かはわかりませんが…。」
伊丹は幻洛に気付かれないようにゴクリと息を飲み、自らの緊張を和らげた。
「こんな事、言うのは変かもしれませんが…。幻洛さんと結ばれてから、少しだけ見える世界が変わっている気がするんです。」
「見える世界?」
「…何というか、あちら側の世界が見えにくくなってきたと言いますか…、」
要するに、霊界に引き込まれる感覚が薄れていたのだった。
幻洛とツガイになる前…、すなわち、ふゆはが結界の術を教えてほしいと言っていた頃。
それはもう毎日のように、伊丹は自分が自分でなくなる感覚を感じていた。
特に夜、眠りにつく頃は一層強く霊界の"念"を感じ、次に目覚めるときはこの世界にいないのではないかと不安に駆られながら過ごしてきた。
しかし、今となってはどうだろうか。
あの重くのしかかるような感覚が、不思議なほど軽くなっているのだ。
まるで"奴ら"が何かに追いやられているかのように。
「それはそれで…大丈夫なのか…?」
伊丹の体調の変化を知り、幻洛は些か不安気に問いかけた。
「視力が悪くなったというわけではないので大丈夫ですよ。」
そう呟く伊丹は、とても儚げだった。
「フフッ…やっぱり変ですよね、こんなこと言うのは。」
具体的な表現ができない自分自身に伊丹は苦笑いした。
今この状態を説明するのは、これが精一杯だった。
「…俺は変とは思わないな。」
いつになく、幻洛は真面目な表情で答えた。
「むしろ前より、伊丹はよく笑うようになったと思う。」
射止めるような幻洛の金眼に、伊丹は釘付けになった。
幻洛は静かに、伊丹の頬に優しく触れる。
「…それに、益々、綺麗になったな。」
「…!」
するりと頬を撫でられ、伊丹は緊張と期待に肩を震わせた。
伊丹は頬を赤く染め、上目で幻洛を見つめ返した。
頬に触れる幻洛の雄々しい手を優しく包みながら。
「…本当に、貴方はもの好きなお方ですね…。」
伊丹は甘えるように、頬を触る幻洛の手に自ら頬擦りした。
「…。」
伊丹が素直に甘えてくる光景に、幻洛は脳裏で雄の欲望がざわついた。
初めて伊丹を抱いた日以来、自らを慰めることもしてこなかった。
そんな幻洛にとって、思考が雄に支配されるのは容易かった。
伊丹はするり、と幻洛の逞しい背に腕を回す。
「!」
鼻先に香る伊丹の匂いに、幻洛はごくりと唾を飲んだ。
「フフッ…。」
欲望に葛藤する幻洛を見通すかのように、伊丹は妖艶に身体を擦り寄せ誘ってくる。
「…あまり俺をからかうなら襲うぞ…。」
幻洛も伊丹の細い腰に手を回し、雄の欲望を潜ませた金眼をギラリと光らせながら低い声で唸る。
「おやおや。…最初から、僕はそうされるつもりでしたが?」
伊丹はなおも挑発するように、幻洛の唇をしなやかな指先で撫で上げる。
幻洛はグラリと理性が崩れ落ちるのを感じた。
「…後悔するなよ。」
伊丹の妖艶な眼差しに、幻洛は全身の熱が一気に上昇した。
「んっ…」
幻洛は欲望のまま唇に噛みつくと、伊丹はビクンと身体を震わせた。
そのまま口腔を舌で弄ると、伊丹も遠慮がちに舌を絡ませる。
ヌチュ、と卑猥な音を立てながら解放すると、互いに高揚した目で見つめ合った。
「…伊丹…明日の仕事は…?」
「は、…今日の祈祷が山場だったので…暫くは緩やかですよ…。」
「そうか…。」
幻洛の中で期待が込み上がる。
つまり、今夜は存分に抱くことができる合図でもあった。
はあっ、と、伊丹の熱い吐息が幻洛の耳に触れる。
「…だから幻洛さん…早く…」
「!」
背に腕を回し、跨がりながら柔らかな身体をスリスリと擦り寄せ誘い続ける伊丹。
その下腹部は熱を帯び、少しばかり湿り気を纏っていた。
幻洛の理性は呆気なくも崩れていった。
「…くそ…ッ」
「あっ…」
幻洛は膝の上に跨っている伊丹を抱き寄せ、はだけた浴衣から晒される首筋を貪るように噛み付く。
ふわりと感じる伊丹の匂いに、幻洛は雄の欲望が急激に湧き上がるのを感じていた。
「ん、っ…幻洛さん…」
チュッと痕をつけられるもどかしい刺激に、伊丹は身を捩らせる。
「…伊丹…結界は…?」
「は、ん…幻洛さんが、僕の部屋に入ったときから張っています…。」
「ほう…随分と期待していたようだな…。」
幻洛はニヤリと笑みを浮かべると、慣れた手つきで伊丹の浴衣を脱がせていく。
「…僕だって、幻洛さんを独占したい欲望くらいあるって言ったでしょう…?」
「ああ、そうだな…。」
幻洛は息を荒げながら、荒々しく自身の浴衣も脱ぎ捨てていく。
その雄々しく逞しい身体に刻み込まれた古の傷跡に、伊丹はうっとりと目を細めた。
伊丹は幻洛の傷跡を指先でスルスルとなぞると、そのまま恥じる様子もなく唇を寄せた。
「っ…!」
伊丹の突然の行動に、幻洛は思わず息を呑んだ。
ちろちろと、熱く濡れた伊丹の舌が幻洛の古傷を遠慮がちに舐める。
「ん、は…幻洛さんの、傷…」
伊丹は抱きつきながら幻洛の膝の上に跨った。
熱く湿った蜜壺をスリスリと擦るように腰を揺らし、そのまま古傷を舐め上げる。
「っ、く…」
その刺激的すぎる姿だけで、幻洛は達しそうなほど雄の欲望を張り詰めていた。
幻洛は目の前にある伊丹の胸に喰らいついた。
「あっ、ん…!」
ぴんと勃ち上がった頂を舌でぬるりと弄びながら軽く吸うと、伊丹は小さく鳴きながら腰を跳ね上げる。
男なのに女のように鳴き、胸先で快感を拾ってしまう包帯で巻かれた身体。
伊丹は複雑な心境になりながらも、幻洛から与えられる快感に生理的な涙を目に溜めていた。
「ふ、…こっちは随分と濡れてるな…、そんなに欲しかったのか…?」
徐に、幻洛は伊丹の下腹部に手を入れる。
妨げとなっていた布を取り払うと、控えめな雄に隠れた伊丹の雌が、待ちわびるように熱でぐしょぐしょに濡れていた。
「んっ…、当たり前のことを、聞かないでください…。」
「そうかそうか。」
早く、と待ちわびる伊丹に対し、幻洛の中で黒い欲望が渦巻く。
散々俺を煽ったんだ。
少しは過ぎたコトをさせてもらおうか。
何かを思いついたかのように、幻洛はニヤリと口角を上げる。
「!?」
突然、伊丹の視界がぐらりと回る。
「あっ…!幻洛、さっ…!な、に…!」
押し倒された伊丹は、突然の状況に困惑した。
これから彼が何をしようとしているのか。
伊丹が全てを理解する頃には、既に遅かった。
「やっ…!」
伊丹の太腿をグッと持ち上げると、幻洛はそのまま股の間に顔を埋めた。
熱く濡れた伊丹の雌を、ベロリ、と軽く噛みつくように舐め回す。
予想もしていなかった恥ずかしい状況に、伊丹は自らの股で弄ぶ幻洛の頭を引き離そうとする。
しかし、舌で与えられる小さく熱い快感に、伊丹の抵抗は形だけで虚しく終わった。
「やだっ…!幻洛さ…ッ、そんな、きたな、い、からっ…!」
「…、伊丹の身体は全て綺麗だぞ…。特にココは美味くて…、ああ…伊丹の匂いは堪らなく興奮する…。」
ニヤリ、と股から意地悪な笑みを向けた幻洛は、完全にオスと化した獣の顔をしていた。
幻洛は構わず、再び伊丹の蜜壺を唇と舌で食みながらじゅるりと吸い上る。
「ひ、ぁん…!ばかッ…!」
伊丹は弱くも強い快感に尻尾まで震わせながら、なんとか逃げようと試みる。
しかし、幻洛の太い腕にガッチリと腰を捕まれてしまい、もはや伊丹には為す術がなかった。
幻洛の嗅覚と思考を刺激する、雌の、伊丹の匂い。
伊丹の機能していない雄の下に隠れるように在る雌の器官は、刺激するほど熱を帯び、愛液を増し、目の前の男を恥ずかしそうに誘っていた。
雄の本能に支配された幻洛は、欲望のまま伊丹の雌に喰らいつき、熱く湿った舌全体で秘部と愛液をヌチャヌチャと舐め回す。
「ん、やぁ、…っ」
幻洛の愛撫を必死に受け止める伊丹は、与え続けられる快感を耐えるように敷布をギュッと掴んでいた。
ひたすら弄び、時折蜜壺の中まで舌を挿れる幻洛に、伊丹は入り口の秘部が痺れるようにじわじわと疼いていた。
「は、…ッ」
そろそろ、限界だ。
幻洛は上半身を起こすと、手荒く自らの下着を解く。
「ぅ、わ…」
ブルンッ、と勢いよく姿を現す幻洛の雄に、伊丹の視線は釘付けだった。
いつになくその肉棒は荒々しく、むわっと灼熱を帯びていた。
幻洛はそのまま伊丹の脚を抱えあげると、疼く雌の箇所に滾る雄の先端をグッと押し付ける。
「っ…!は、げんらく、さんっ…」
幻洛の熱い先端を感じ、早く、と言わんばかりに伊丹は潤む目で訴えた。
「ッ…!」
たまらず、幻洛は腰を押し進める。
そのまま、ばちゅん、と一層力強く伊丹を突き上げた。
「ひあぁっ…!ん、っ…!」
突然の重く甘い刺激に、伊丹は思わず仰け反った。
「あぅ、っ、ん、げん、らく、さ、…っ」
「はっ…、く、っ…キッツいな…」
キュッと甘く締め上げる内壁に、上等だ、と幻洛は口角を上げ高揚した。
ぱちゅ、ぐちゅん、と互いの肌と欲液が混じり合い、卑猥な音が寝室に鳴り響く。
するり、と伊丹の細く可憐な脚が幻洛の腰に絡まる。
それに反応するように、中で暴れまわる幻洛の雄がグッと質量を増した。
「や、ぁっ…!これいじょ、おっきくならないで…!」
か細く鳴きながらも、伊丹はぎゅうと幻洛にしがみついた。
「ッ…、は、無理に決まってるだろ…」
悲願するも吸い付くように誘い込む伊丹の中に、幻洛は容赦無くガツンと腰を打ちつけた。
幻洛の熱い雄に激しく抜き挿しされている伊丹の蜜壺。
そこは混ざり合った互いの愛液が白濁と泡立ち、ぐぽっ、じゅぽっ、と空気を含んだ卑猥な音に変わっていた。
「あっ、ぁ…!っ、げんらく、さぁん…っ」
本能のまま無茶苦茶に揺さぶられ、内側から与え続けられる快楽に耐えるよう、伊丹は必死で幻洛にしがみついた。
「もっと、”ぼく”のことみてっ…、”ぼく”で、…いっぱいきもちよくなって…っ」
「!!」
伊丹の言葉に、幻洛の動きが一瞬止まった。
それは卑猥な意味ではなく、伊丹の心の内に秘められた言葉だった。
『…自分は徐々にあちら側の世界に取り込まれている…』
以前、疾走した伊丹を連れ戻し、その晩に伊丹の口から告げられた真実。
呪いの症状が軽くなっているとはいえ、まだ何が起こるかわからない。
もしかしたら、日に日に、伊丹が伊丹でなくなっているのかもしれない。
幻洛は動きを止め、覆いかぶさったまま、伊丹の眼を見つめた。
息を乱し、熱に浮かされ欲に溺れたその眼は、深海のように蒼く、この先の快楽を求めるように、幻洛を見返していた。
今、俺が抱いているのは、紛れもなく、”伊丹”だ。
絶対に、誰にも、俺の伊丹を渡さない。
伊丹は、俺のものだ。
「ッ…!」
幻洛はギッと歯を食いしばると、本能のままに伊丹の首筋にかぶりつく。
そのまま、ジュ、と吸い上げると、伊丹の色白な首筋に、紅い痕が華のように咲き乱れた。
幻洛は続けて、いくつもの所有痕を伊丹の身体に残した。
「っ…あ、ぅ、幻洛さん…!そんな、っ…!み、見えるところ、は…、」
伊丹は幻洛の胸板に手を押し当てやんわりと阻止するも、その手すら掴み上げられ、ガブリと優しく噛みつかれる。
「はッ…、渡さない…、伊丹は、ッ…、俺のものだッ…!」
幻洛は唸るように言葉を吐くと、下腹部に一層の強い力を込め、激しい律動を再開させた。
「んあっ…!ひ、んっ…!あ、あっ…!げん、らく、さっ…!」
ばちゅん、どちゅ、と、肌の当たる音が再び鳴り響き、互いの理性を壊していく。
伊丹はビクンと腰を跳ね上げ、内壁をビクビクと軽く痙攣させた。
「あ、あっ…!イく、イっちゃうぅ…!ぼく、イっちゃうっ…!げんらくさん…っ、きてっ…!」
「ッ…!伊丹ッ…!」
正面からぎゅうとしがみつく伊丹に、幻洛も背に腕を回し、力強く伊丹を引き寄せた。
幻洛は伊丹を抱き寄せたまま覆いかぶさり、雄の本能のままに腰を打ち付けた。
「んやぁっ…!」
幻洛の先端が最奥の弱いところに当たり、伊丹は甲高く鳴きながら脚を幻洛の腰に絡ませた。
ゾクゾクッ、と、幻洛の腰から吐出前の波が押し寄せる。
「はっ、ッ…、いたみ…ッ」
「あ、ぁっ、ぅん、っ…!げんらく、さ、っ…、いっぱいだしてぇ…!」
恥という概念を失った伊丹は、本能のままに言葉を漏らし、絶頂を迎えた。
ドクンッ、と、最奥で繋がった下腹部が一際強く脈打つ。
「ひ、あっ、ぁ…!んやぁあぁっ…!」
伊丹は身体を震わせながら幻洛にしがみつき、ビクッと脚を蹴り上げ、内壁で咥えこんだ灼熱の雄をギュウゥゥと締め上げながら絶頂した。
「ぐ、っ…!いたみ…ッ!」
ドピュッ、びゅくっ、と、幻洛も連日溜め込んだ欲望を一気に流し込む。
一際強い伊丹の締め付けと押し寄せる快感に、幻洛は奥歯をグッと噛み合わせた。
情事の熱い空気が残る寝室に、静寂が訪れる。
「…は、はっ…く、…」
幻洛は息を乱しながら、伊丹を自由にするため身体を退いた。
「あっ、ぁ、ぁぅ…」
ズルズル…と引き抜かれる雄の感覚に、伊丹は小さな快感を拾い腰を震わせる。
じゅぽん、と音を立てて抜かれたソレも、伊丹の雌と欲液の名残で繋がったまま、未だ灼熱と硬さを残し小さく震えていた。
伊丹は身体の中でまた、暗く冷たく重たい何かが砕け散ったような気がした。
初めて幻洛に抱かれ、精を中に出されたときに感じた、あの感覚だ。
この不思議な感覚は、一体、…。
ぼんやりとした思考のまま、伊丹はゆっくりと身を動かす。
散々弄ばれ、雄の杭を引き抜かれた伊丹の蜜壺は、幻洛の欲を零しながら名残惜しそうにヒクヒクと伸縮を繰り返していた。
「ん、…なか、げんらくさんの…いっぱい…」
素性なら絶対言わない言葉を漏らしながら、伊丹は傍らに横たわる幻洛にそっと身を寄せた。
そんな伊丹に対し、幻洛も愛おしそうに抱き寄せ、額へ優しく口付けをした。
「………幻洛、さん…」
「!」
伊丹は涙を流していた。
それは生理的なものではなく、不安に満ち溢れた感情によるものだった。
「…あなたの…、覚の目に映る僕は…まだ、”僕”でしょうか…。」
深海のように蒼く深い伊丹の瞳は、月明かりに照らされながら幻洛の金眼をしっかりと見つめていた。
満たしても満たしても、呪いへの恐怖に心を囚われている伊丹に、幻洛は内心舌打ちをした。
「…当たり前だ…。」
幻洛は重低音の声で答えながら、伊丹を優しく抱きしめた。
幻洛の腕の中で抱かれるその存在は、本物の”伊丹”そのものだ。
伊丹が伊丹でなくなるなど、絶対に許さない。
たとえ味方でも、地位の高い奴でも、誰であっても、伊丹は渡さない。
伊丹が離れたとしても、必ず見つけ出し、奪い返す。
この先、百年、千年、その先であっても、伊丹を離さない。
未だ見えぬ不安を打ち消すように、幻洛は伊丹を腕の中に閉じ込めた。
しんと静まり返った寝室を、月の光が優しく照らしていた。